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空間生物学の新領域 ~ 10 nm以下の尺度でタンパク質近接度を評価する
空間生物学(Spatial Biology) とは
生体内では、転写・翻訳・翻訳後修飾といった過程を経ることでDNAという設計図から実際に機能を発揮するタンパク質がつくられています。つくられたタンパク質はその場で機能を発揮することもあれば目的とする場所へ輸送されることもあり、輸送の有無・行き先や機能のon・offは様々な機序で制御されています。疾患特異的な遺伝子・タンパク質の変化やそれらの制御機構に関する研究が盛んに行われ、その成果は疾患の予防から治療まで様々な場面で私たちの生活に還元されてきました。
生命現象や疾患の理解をさらに深めるための学問として近年注目されているのが「空間生物学」です。正常な組織であってもかなりのheterogeneity (不均一性)を有していることが知られているほか、疾患独自の微小環境が形成されていることなどもわかってきています。
抽出した試料を解析するといった従来の手法では遺伝子やタンパク質の局在・相互作用情報が失われてしまい、得られる結果は「平均像」となります。「heterogeneity」を理解するためには、遺伝子やタンパク質の変化を実際の組織中での局在情報と合わせて評価する必要があり、それを行うのが空間生物学です。DNA, RNA, タンパク質を対象とした様々な空間生物学的な解析技術が近年急速に身近なものとなってきています。
空間生物学的なタンパク質間相互作用・近接度解析の重要性
タンパク質の「機能」は基本的には多量体化や対となる因子との相互作用(タンパク質間相互作用,PPI やレセプター/リガンド間の相互作用など)により発揮されるため、恒常性の破綻や疾患独自の微小環境の形成は遺伝子変異や発現量の増減がトリガーとなり、多量体化を含めた相互作用が変化した結果生じるものであると考えることができます。
免疫反応( Immune pathway)やがん微小環境(Tumor MicroEnvironment, TME)では多くの因子が複雑に関係しあっているにも関わらず、治療標的とされるのは多くの場合、特定の一分子です。これは、特定の相互作用により恒常性が維持されていることの裏返しであるとも捉えることができるのではないでしょうか。よって、遺伝子変異やタンパク質の発現量に加えタンパク質の相互作用(近接度)を評価することで、病理や治療に関する理解がより一層深まると期待されています。
前述のように、組織を破砕してしまっては局在情報が失われてしまいます。そのため、実際の組織中での相互作用の程度を評価するためには組織切片上にて相互作用する二分子の局在を解析する、つまり空間的な近接度解析が重要となるわけです。
理にかなった尺度での空間的かつ定量的な解析プラットフォーム ~ QF-Pro ®技術
組織切片は自家蛍光を発することなどもあり、現在では、FFPEや凍結切片上でタンパク質の近接度を観察する場合には金属同位体やオリゴなどが活用されています。これらの技術によって空間的な解析が可能となっていますが、『解析尺度と定量性』の観点では、まだまだ伸びしろのある分野でもあります。
このような中で新たに誕生したのがQuantifying Functions in Proteins (QF-Pro®)テクノロジーです。QF-Pro®テクノロジーは組織切片上にて(培養細胞もちろん対応しています)10 nm以下の尺度でタンパク質の近接度を空間的かつ定量的に解析する技術です。タンパク質一分子は5nm程の大きさであり相互作用している二分子は10nm以内に共局在していると考えられるため、「10nm以下の尺度」での解析は理にかなっているといえます。理にかなった尺度での解析により得られた近接度の定量値をヒートマップとして組織切片上で可視化したり、治療奏効度を評価する際の閾値として用いるなどすることで、空間的かつ定量的にタンパク質の相互作用ステータスに迫ることが可能となりました。
細胞レベルでは、相互作用阻害剤添加に伴う近接度の変化の定量解析などで活用されています。組織切片では、近接度に基づいて治療奏効度を評価したり、がん転移前後の病巣での近接度やリン酸化の程度比較など、基礎研究からクリニカル(トランスレーショナル/リバーストランスレーショナル)領域まで幅広く活用されています。
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